吾輩は、ミドリガメである。
名前はなかったが、今の飼い主に「カメキチ」と名付けられた。
生まれたのは、住宅地を流れる小川らしいが、よくわからない。
なにしろ、ザリガニ釣りをしていたガキどもが帰ろうとしたとき、向こうから歩いてきた爺さんが、なぜかカメを手に持っていて、
ガキどもに「これ、あげる。」と言って渡したそうだ。
カメが欲しかったガキの中で、じゃんけんをして、勝ったのが今のご主人さまだ。
いや、正確に言うと、1年ほどしか面倒をみてくれなかったが。
そのあとは、代わりにご主人さまの親が、面倒をみるようになった。
ご主人さまは、吾輩がきたとき、吾輩のことをいろいろ調べて、
吾輩が、ミドリガメであり、30年ほど生きること、体長が30センチ近くなる、
という事実を知って、家中、大騒ぎしていたようだ。
もらってきたご主人さまは、10歳だったので、まあ、吾輩が2歳だとして、38歳になるまで生きることになる。
ご主人さまの母親は、「結婚したら連れて行くのよ!」なんて、ずいぶん先の心配までしていた。
さて、吾輩ミドリガメのことを知っているかい。
元々は、アメリカからメキシコに流れるミシシッピ川で生息していた。
アカミミガメとも呼ばれ、目のうしろの耳の部分が赤くなっている。
小さいときは、甲羅がミドリ色でミドリガメと呼ばれているが、成長とともに黒っぽくくすんでくる。
雑食性で、水生の植物や果実、花、昆虫、小魚、甲殻類など何でも食べる。
気温が10度を下回る11月頃から3月にかけて、冬眠をする。
しかし、家のなかで飼われていると、完全には冬眠できないんだ。
ペットとして人気になり、世界中に輸出され、日本には、1950年代後半から入ってきて、1990年代半ばには、年間100万匹も輸入されたという。
お菓子メーカーの景品になったことを、覚えている人もいるかもしれない。
そのくらい、たくさんのミドリガメが日本にやって来たということだ。
その後、ペットとして飼われていたミドリガメが、飼いきれなくて野外に放され、
日本にいた在来のカメ類や、水生植物、魚類、両生類など、生態系に影響を及ぼすまでになってしまった。
環境省は、生態系に影響を与えるものを「要注意外来リスト」に入れている。
吾輩はその中に入ってて、勝手に川や池に放してはいけないらしい。
幸い最初に連れてきてくれたご主人さまの家族は、動物が好きなようで、
飼い方を調べて、水槽に吾輩を入れ、水を入れ、
肺呼吸の吾輩のために、人工の陸場も作って、大事に育ててくれている。
水がすぐ汚れて、臭くなると、ブーブー言いながらも、水替えをしてくれるから、今日まで生きてこられたと思っている。
しかし、カメを育てるのは素人なので、失敗もあり、危うかったことがあった。
まぶたが開かなくなり、目が見えなくなってしまったのだ。
目が見えないと、餌が食べられない。自然界では死を意味する。
カメの医者を探すといっても、犬猫病院はどこでもあるが、どこに行けばいいのか。
幸い、小動物専門の病院を見つけて、ご主人さまに飼われて以来、初めて家の外に出た。
女性の獣医は、カメが好きらしくて、机の上に吾輩をのせて、楽しそうにいじくりまわした。
診断は、栄養の偏りで、ビタミンAの不足で目が見えなくなってしまったらしい。
それまで、ご主人さまは、餌は自己流に、煮干しばかりくれていた。
うまかったので、食べていたが、それがいけなかったらしい。
その他、紫外線不足で、甲羅の形が変形している、とか、水槽に入れている水の量が少ない、など、いろいろおこられていた。
ちゃんと調べて飼ってくれてたと思っていたが、ずいぶん適当だったんだなー。
獣医のアドバイスで食生活が改善され、ドイツ製のカメの餌に変わった。
目薬までさされて、10日くらいで、目が見えるようになる。
その後、ほぼ毎日の水替えは、相変わらずブーブー言いながらやっているが、
正しい飼い方になって、すこぶる健康。
おかげで、ここに来て18年になった。
あと10年は生きる、年とると世話をするのも大変だと、話していたり、
ここまで長生きしたのは、動物が好きな家に来たからなので、感謝しなさい、などと、恩着せがましく言われることもあるが、
聞き流している。
ミドリガメという外来種ということで、微妙な立場だが、
吾輩だって好きで来たわけではない。
この家で天寿を全う出来れば、本望というものだ♪
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